喪失に宿る宇宙
『Once』開幕に寄せて
ミュージカル『Once』開幕がついに来週に迫ってきた。ここまで長いようで短かった。あっという間だった。
『Once』のお稽古場にいる時、わたしが産まれる前に亡くなった祖父を思い出した。これまで祖父について何かを思ったことはあまりなかったけれど、稲葉さん演出の『Once』を観ていると、ああ、祖父を愛してるんだなわたし、という感覚が不思議と湧いてきた。一度も会ったことはないけれど、愛してる。今をもう生きていないけれど。会うことも二度とないのだけれど。そんな風に思うのは初めてで、少し泣いた。
誰かを、何かを喪失している感覚は、身体にぽっかりと穴が空いている感覚に似ている。その穴には途方もない宇宙が宿っているような気がする。触れそうで触れ合わない天体がまわりつづけ、光の角度で姿が変わる。あなた、こんな形でしたっけ、と昨日も今日も考えつづける。たしかめたい。たしかめられない。引き離される。それでも巡り会うのを待つ。潮が満ちる。涙が流れる。一度離れれば、離れてしまう。引力も、重力も、憎くて、愛しい。大切な人、もう会えない人、生きている人、亡くなった人、すべてがひしめき合い、息をして、とっても軽やかに、しなやかに、旅をしている。
そこにそっと身を投じてみると、どうしようもないほどに、愛してる、という感覚が湧く。それは、あなたに触りたい、とか、所有したい、とか、そんな小さな欲望じゃない。もっと、願いであり、祈りのようなもの。あなたが自分の傷をきちんと引き受けられますように。他者の傷に静かに寄り添えますように。それが苦しければ、わたしにできることがあれば、手を差し伸べるから。
愛の懐の深さ。身体一つに宿る宇宙の広さ。そんなことに想いを馳せるお稽古の日々でした。
わたしは演劇をどこかで死者の芸術だと思っている。舞台上にのっている人が、すべて死者に見える瞬間があるから。そこに、亡くなった祖父を見たのかもしれないし、もう会えない人を見つけたのかもしれない。時や場所を超えた何かが交わる。その瞬間に広がる新たな旅路に、身を委ねてみたい。
『Once』は9月9日(火)日生劇場にて開幕します。どうかたくさんの人に届きますように。
https://www.tohostage.com/once/
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ミュージカル『Once』
脚本 エンダ・ウォルシュ
音楽・歌詞 グレン・ハンサード/ マルケタ・イルグロヴァ
原作 ジョン・カーニー (映画「ONCE ダブリンの街角で」脚本・監督)
出演者
ガイ 京本大我
ガール sara
ビリー 小柳 友
エイモン 上口耕平
アンドレ 竪山隼太/榎木淳弥 (Wキャスト)
シュヴェッツ こがけん(当面の間、新井海人さんが務められます)
銀行の支店長 佐藤貴史
レザ 土井ケイト
元カノ 青山美郷
MC 新井海人
ダ 鶴見辰吾
バルシュカ 斉藤由貴
イヴォンカ
浅利香那芽 遠藤桜子 清水七喜咲 (トリプルキャスト)
石井千賀 漆間良尚 小宮海里 澤根エイジアグレース 下総源太朗
永原万里奈 樋口祥久 廣瀬喜一 ユーリック永扇
ミュージシャン
1stギター 中村大史 /中山彰太
2ndギター/マンドリン かわぐちシンゴ
3rdギター/マンドリン/バンジョー 高橋 創
パーカッション/ドラム/マンドリン 石崎元弥
1stバイオリン 奥貫史子
2ndバイオリン さいとうともこ
チェロ 巌裕美子
アコーディオン/ピアノ 西井夕紀子
ベース 千葉広樹
スタッフ
翻訳・訳詞 一川 華
演出 稲葉賀恵
音楽監督 古川 麦
ステージング 小野寺修二
美術 乘峯雅寛
照明 松本大介
音響 けんのき敦
映像 松澤延拓
衣裳 中原幸子
ヘアメイク 谷口ユリエ
歌唱指導 長谷川 開
音楽監督補 中村大史
稽古ピアノ 杉田未央/西 寿菜
演出助手 田丸一宏
舞台監督 和田健汰
制作助手 吉本未来/新子里奈
制作 横田梓水(ゴーチ・ブラザーズ)
プロデューサー 白石朋子/松本宜子
スーパーバイザー 寺﨑秀臣 増永多麻恵


